月ちゃん
- Bio Sinfonia

- 1月2日
- 読了時間: 7分

愛犬ムーンと出会ったのは、16年前の秋。
山すそから、大きな満月が昇ってくる夕暮れ時でした。
そんなこともあって、10月の満月にはムーンと出会った場所に必ず行こうと決めていました。
初めて出会ったあの日、あの瞬間・・・。
そんな奇跡を体験したあの場所にもう一度行けば、もしかすると何かがあるかもしれないという、淡い期待がぬぐえなかった。
そこに行っても、ムーンがいるわけじゃないのはわかっている。
わかっていても、ムーンに会えない寂しさから「あそこに行けば‥」という意味不明な期待を抱いてしまう。
もう一度、会いたい。
もう一度だけ、会いたいんだ!
会えないことが、こんなにも辛いとは。切ないとは・・。
だから、出会ったあの日に思いを馳せて、出会った場所に車を止めて、思い出を振り返ってきました。
道路脇からムーンが飛び出してきた場所を見ると、そこは崖のような場所でした。
小さな子犬が、この絶壁をどうやってよじ登ってきたのか?
なぜ、こんなところにいたのか?
考えれば考えるほど、驚きでした。

そして、道路を横切ったムーンが、この金属の柵(↑)の向こう側まで入ってしまったとき、旦那さんが柵の下から手を入れて、ムーンを「こっちにおいで」と引き寄せるのがあと少しでも遅かったなら、ムーンはすぐ先の濁流に流されていたかもしれない。
道の片側は絶壁。もう片側は濁流。
目が開いたばかりの小さな子犬にとっては危なすぎる道で、本当に危機一髪だったのです。
しかも、この金属の柵のすき間を通ってしまうくらい、あのときは体がまだ小さかったんだなと思うと、改めて驚きでした。
「出会えて良かった」以上に、「あのとき、命が助かってよかった!」と、今更ながら心がふるえたのでした。

しかし、あれから16年後。
同じ場所に来てみると、もう一つの切なさがありました。
昔は大好きな場所だったけれど、久しぶりに行ってみたら予想以上に雰囲気が悪くなっていた。
当時は、いつでも出入り自由だった公共の憩いの場が、土日祝は立ち入り禁止、夕方以降も立ち入り禁止のバリケードが張られ、残念なほど荒れているし、空気もくさい・・・。
かつては綺麗な空気を求めて避難しに来ていた場所だったのに、今では逆に「早くここから避難しないと!」と、口をふさいでもだえるほど空気が悪い。。。
あの頃は、いつでも奇跡が舞い降りそうな雰囲気だった気がするけれど、今や妖怪あたりが湧き出てきそうなどよーんとした感じ。。
「行けば何かが‥」という淡い期待は破られた。
当たり前だけど、こんなところにムーンはいない。
こんなくさいところに、ムーちゃんが来るわけがない。
旦那さんと二人で懐かしい話をして感動しながら、そして最後にちょっとがっかりしながら、「ムーちゃん、いないね」と当たり前のことをお互いに口走りながら、家に帰ることにしました。
そして私は、ここ1カ月前くらい何度も言っていたことを、また口走ったのだった。
「ムーちゃんだったら、家の玄関に向かって『ただいま』って自分で歩いてくるから。早く家に帰ろう」と。

傷心すぎるせいか、度を越した【確信】しか、湧き上がらない。
「ムーちゃんなら、玄関に向かって自分で歩いてくる」
そんなことを初めて言ったとき、旦那さんは音もなく爆笑しながら、「そうかー、玄関まで歩いてくるっていう発想は思いつかなかったな~」と言ってくれた。
誰が聞いても、「空想か、冗談か?」としか思えないようなことだけど、
だけど・・・
「ムーちゃんなら『ただいま』って言って、玄関に向かって歩いてくる!」
「自分から玄関に入ってくるしか考えられないんだもん!」
・・という、ブロークン・ハートすぎて脳もバグりぎみのせいか「それしかない!」という絶対的な決意しか常に湧き上がらない。
いつかはわからないけど、いつか玄関まで歩いてくる!って決まっているんだー(泣)という、心の叫び。
確かに、ムーンは天国に行ってしまった。
肉体的な痛みや苦痛のない、魂の楽園に行ったのだ。
だけど・・・もう一度、会いたい。
なにかの形で出会いたいんだ!
そんな願いが、「ムーちゃんだったら玄関まで歩いてくるんだもん!」という絶対的な決定事項となって、魂に刻み込まれる音しか聞こえない。
頭がおかしいのはわかってる。
だけど、その日が必ず来るから、今日をがんばろうと思う。
非現実的なのはわかっているけれど、そんな思いしか湧き上がらなかった。
そんな風にして、何の奇跡も起こらなかった10月の満月が過ぎて、その翌朝。
玄関前に、かわいい肉球の足跡がついていた。
まず旦那さんが気が付いた。
「見てよ、これ動物の足跡だよ!」と。

白っぽいマットを敷いていたので、よく目立つ。
誰の足跡だろうか?
森に囲まれているわが家の敷地には、これまでも野ウサギ、たぬき、ハクビシンなど、いろいろ見かけることがあったから、まぁ誰かだろうねと。
普段は見えなくても、森にはいろいろな生きものたちがいる。
さすがに玄関マットの上に足跡がついてるなんて、初めてのことだったけれど。
小さくて可愛い足跡です。
私は、「あぁ、足跡だね~ 可愛いね~」くらいに軽く思っていた。
しかし。
その翌日も、その翌々日も、また玄関のマットの上に肉球の足跡がついていた。
すると、ここで旦那さんの探求心に火がついた。
その日から旦那さんは、ムーちゃんに食べさせてあげられなかったラム肉のフリーズドライのおやつを、玄関前に2~3粒ほど供え始めた(笑)。

すると、どうだろう。翌朝までには、そのお肉片が消えているのだ。
それと引き換えに、小さな足跡だけが残されていく。
誰なんだろう?
え、誰なんだろう?
私の探求心にも、火が付き始めた。
ある日などは、寒さを我慢しつつ、玄関のガラス越しに顔をくっつけられるよう布団をセッティングして、そこで一晩わくわくと過ごしてみた(笑)。
※家がDIYなので、玄関はこうなっているよ↓(ムーちゃんがご存命の頃)

ここで寝ていれば、さすがに相手の正体はわかるはず!
真夜中でも、誰かが窓越しにやって来て、目の前のあがりがまちに乗っかった瞬間に、その物音で目が覚めるだろう。そして、相手の正体がわかるはずだ。
そう思った。
玄関前で寝た初日、朝の6時に目を開けてみると・・・おや? まだラム肉が残っているよ‥!
「ということは、これから誰かが来るんだな!」
と、ワクワクしながら窓ガラスに顔をくっつけてウトウトしていたら、そのまま寝落ちしてしまい・・・1時間後に目が覚めたときには、すでにラム肉は消えていた‥!
オーマイガーッ!
なんという、忍び足!
音も立てずに、あがりがまちに乗っかって、寝落ちした私の顔を横目にラム肉だけ食べて去っていくのね!
誰なのか確認できない悔しさで、これを1週間くらい続けましたけど、私というやつは毎回寝落ちしてしまい、いつもお肉だけがこつぜんと消えているのであった!
どうやらお相手は、抜き足・差し足のプロのようだ‥!
しかも、相手がやって来る時間帯がランダムすぎて、真夜中だったり早朝だったりと、まったく読めない!
そうこうしているうちに、寒いからもう諦めた!
わが家ではここ数年、まともな暖房アイテムを使っていないのです。冬って寒いよね~
そんなことを続けて、約1か月後。
11月の満月になった。
それは、スーパームーンの訪れとともにやってきた。

その小さな生きものは、やがてチラチラと等身大の姿を現し始め・・・
そしてついに、正体がわかってしまった。。。
満月に、玄関に向かって歩いてきた子。
以来ずっと
毎日、欠かさず
玄関に向かって「ただいま~」という顔で歩いてくる。

茶色と白の、もふもふの毛並み。
この子が「誰」とは言わないけれど。
でも・・・

「月ちゃん」と呼んでいます。
謎の多い、月(つき)ちゃん。
旦那さんは、「あんなにえっちゃんが言ってたから本当に玄関まで歩いてきた子がいたよ! こんなことってある?!」と驚愕の極み。
私は、「いいえ。あなたがラム肉をお供えしたからですよ」と心から思う。
ムーンは、ムーンという犬で、唯一無二の存在だから。
だから、この子が誰だとか、なんだとかは言わない。
考えられないし、、、考えられない。
ただただ、月ちゃんが来てくれて嬉しいという気持ち。
玄関まで歩いて来てくれて、本当にありがとう。

出会ってしまったからには、またいつか必ず、お互いの別れの時がやってくる。
大切な存在になればなるほど、別れのときは深く痛む。
でも、だからこそ、今のこの一瞬一瞬を大切にしなければと、人は思うのだよね。

月ちゃんとの日々は、まだまだ始まったばかりです!
(つづく)


